マグロの赤身・中トロ・大トロはどこで分かれる?部位と曖昧な境界

大トロはお腹、中トロはその隣、赤身は背中側。私はなんとなく、マグロの体が三つの区域に分かれているように思っていました。

でも、それなら「ここから中トロ」「ここから大トロ」という境界線があるのでしょうか。調べてみると、話はそんなにきれいではありませんでした。

先に答えると、赤身・中トロ・大トロに全国共通の一本の境界線はありません。一般には、魚体の中心寄りにある脂の少ない肉を赤身、背側や腹側の皮に近い部分などにある適度な脂の肉を中トロ、腹側の前方から中央に多い、特に脂の強い肉を大トロと呼びます。

ただし、同じ位置でも脂の量は一尾ごとに違います。赤身・中トロ・大トロは「マグロの種類」ではなく、位置と脂の状態を見ながら分ける食用部位の呼び名、と考えるのが近そうです。

横から三つに塗り分ければ終わると思っていたけれど、その図だけではむしろ誤解しそう。頭から尾の位置と、皮から中心への深さを分けて見ます。

まず結論:横から見ただけでは境界を引けない

マグロの脂の乗り方には、大きく二つの方向があります。

  • 頭側から尾側への違い
  • 皮側から魚体の中心への違い

魚体を横から見ると、腹側、なかでも頭に近い方ほど脂が強くなりやすく、大トロが取れる中心になります。一方、断面を見ると、脂は皮に近い側で多くなる傾向があり、魚体の中心寄りには赤身が広がります。

マグロを横から見た赤身・中トロ・大トロのおおまかな位置

ここで大切なのは、図の色が「必ずこの範囲」と示す線ではないことです。青森県産業技術センターのクロマグロ調査では、背側の赤身と中トロ、腹側の赤身・中トロ・大トロを分けて測定しています。つまり、赤身は背側だけではなく腹側の内側にもあり、中トロも腹側だけでなく背側から取れます。

同じ調査では、クロマグロは頭に近い部位ほど粗脂肪が多い傾向も報告されています。位置による傾向はあるものの、横から「上半分は赤身、下半分はトロ」と分けるのは正確ではありません。

赤身は「魚体の中央部分だけ」ではない

「赤身は中央」と聞くと、横から見た胴体の真ん中だけを想像しがちです。ここでいう中央は、頭と尾の間の中央というより、皮から離れた魚体の内側と捉える方が分かりやすくなります。

マグロを背側と腹側の四つのロインに分けても、それぞれの内側には脂の少ない赤身があります。背ロインの内側も、腹ロインの内側も赤身になり得ます。

マグロの断面で見た赤身・中トロ・大トロの位置関係

養殖クロマグロを扱った日本水産学会誌の研究では、腹部後方の肉を皮からの深さで分け、皮下1センチまでを皮下肉、その内側のうち脂の良い半分を中トロ肉、中心に近く脂質の少ない半分を赤身肉として分析しています。

これは研究のための切り分け方で、売り場の全国統一基準ではありません。ただ、同じ腹側の肉塊にも、外側の脂が多い部分と内側の赤身が同居することはよく分かります。

赤身は魚の横姿に貼られた一つの区域ではなく、断面の内側にも広がっている。側面図と断面図の両方が必要だった理由はここでした。

中トロは背側からも取れる

中トロは「大トロと赤身の間」という名前なので、腹側の大トロの隣だけにあるように感じます。実際には、専門事業者の部位説明でも中トロは腹身と背身の両方にあるとされ、研究資料でも「背側中トロ」が測定対象になっています。

背側では皮に近い部分、腹側では大トロほど脂が強くない部分が中トロとして扱われるのが一般的です。ただし、脂の少ない個体なら同じ場所が赤身寄りに見え、よく脂の乗った個体なら中トロとして取れる範囲が広がることがあります。

したがって、「中トロはこの場所」という座標より、「赤身より脂があり、大トロほど脂が強くない肉」という相対的な呼び分けとして理解すると無理がありません。

大トロは腹側のどこに多い?

一般に大トロが取れやすい中心は、腹側のうち頭に近い腹上(はらかみ)から腹中(はらなか)です。特に内臓を包む腹側の皮寄りには、脂の筋がはっきりした肉が現れます。

ただし「腹上を切れば全部大トロ」ではありません。同じ腹上のサクにも、外側の脂が強い部分と内側の赤身寄りの部分があります。腹中でも頭側に近い部分、皮に近い部分ほど脂が強く、大トロから中トロへなだらかに変わることがあります。

尾に近い腹下(はらしも)へ行くほど脂は弱くなりやすいため、大トロより中トロや赤身として扱われる部分が増えます。それでも、個体の脂の乗り方によって見え方は変わります。

腹上・腹中・腹下と、赤身・中トロ・大トロは別の分け方

市場や専門店では、マグロをまず背側と腹側に分け、さらに頭側から順に「上(カミ)・中(ナカ)・下(シモ)」と呼びます。

マグロの背と腹、上・中・下の位置を示す図

組み合わせると、背上・背中・背下、腹上・腹中・腹下です。これは魚体のどこから切り出したかを表す言葉です。

一方、赤身・中トロ・大トロは、位置に加えて脂の状態も含む呼び分けです。二つを同じ軸に並べると混乱します。

呼び方 何を表すか
背・腹 魚体の上側か下側か 背ロイン、腹ロイン
上・中・下 頭側・中央・尾側のどこか 腹上、背中、腹下
赤身・中トロ・大トロ 脂の状態を含む食用部位の呼び分け 背側の中トロ、腹上の大トロ

黒門市場のマグロ専門店・魚丸は、本マグロの腹側について「カミに寄るほど脂が強く、シモにいくほど脂が弱い」と説明しています。これは大まかな傾向を知るのに役立ちますが、腹上と大トロは同義ではありません。

中トロと大トロの境界に、共通の脂肪率はある?

今回確認した官公庁・研究機関・学術資料・専門事業者の資料では、すべてのマグロに共通する「脂質○%以上は大トロ」という数値基準は確認できませんでした。

むしろ、資料から見えてくるのは数字の幅です。

青森県産業技術センターの調査では、天然クロマグロの「大トロ部位」の粗脂肪は、調査年・個体によって9.9%と17.7%でした。小売店で購入した養殖クロマグロでは57.3%でした。同じ大トロ部位でも大きな差があります。

また、東京大学の学位論文要旨にある45キログラムのメバチマグロ1尾の分析では、脂質は赤身0.5%、中トロ6.6%、大トロ7.2%でした。この個体では中トロと大トロの差は0.6ポイントです。

脂肪量は呼び分けの重要な手掛かりですが、数値だけを機械に通して全国一律に決める名称ではない、というのが調査からの結論です。位置、脂の見え方、サクの取り方、店や流通段階の判断が重なります。

同じ「大トロ部位」で9.9%から57.3%まで出るなら、名前の境目を一本の数値で決めた図は作れません。曖昧さは説明不足ではなく、答えの一部でした。

なぜ同じ位置でも呼び方が変わるのか

主な理由は次の通りです。

マグロの種類が違う

クロマグロ(本マグロ)やミナミマグロは、脂の強い腹身を取りやすい種類として流通しています。一方、メバチ、キハダ、ビンナガは、同じ位置でも脂の乗り方や商品の呼ばれ方が同じとは限りません。

ただし「大トロはクロマグロとミナミマグロにしか存在しない」とまで言い切るのも慎重さが必要です。前述の東京大学の研究では、メバチマグロから大トロと呼ぶ試料を採取しています。魚種ごとに取れる量や市場での一般性は違っても、名称を魚種だけで絶対に区切ることはできません。

マグロの種類名と流通名がまだ曖昧なら、既存記事のスーパーで見るマグロ5種類の違いで、種類と食べ方を先に整理できます。今回の赤身・中トロ・大トロは、その種類の中にある部位の話です。

天然か養殖か、どの季節かが違う

天然魚は餌や回遊、漁獲時期で脂の乗り方が変わります。養殖魚も飼育条件の影響を受けます。養殖クロマグロを3,000尾以上調べた研究では、脂質含量に最も大きな影響を与えた要因は飼育水温でした。

同じ種類・同じ場所なら、いつも同じ脂肪量になるわけではありません。

サクの取り方と売り手の判断が違う

一つの腹ロインからサクを取る角度や深さによって、脂の割合は変わります。中トロと大トロの間に公的な一本線がない以上、どちらの名で販売するかには店や流通段階の判断も入ります。

商品名だけで完全な位置を逆算するより、赤身の色、脂の筋の入り方、魚種名まで一緒に見る方が実物に近づけます。

まとめ:境界が曖昧なのが、いちばん正確な答え

マグロの赤身・中トロ・大トロは、位置と脂の状態をもとにした呼び分けです。

  • 赤身は魚体の中心寄りに広がり、背側だけでなく腹側の内側にもある
  • 中トロは腹側だけでなく、背側の皮に近い部分からも取れる
  • 大トロは主に腹上から腹中の皮寄りに出やすい
  • 腹上・腹中・腹下、背上・背中・背下は、頭から尾への切り出し位置を示す別の呼び方
  • 中トロと大トロを分ける全国共通の境界線や脂肪率は、今回確認した資料では見つからない
  • 魚種、個体、天然/養殖、季節、サクの取り方、売り手の判断で呼び方に幅が出る

だから答えは、「大トロは腹、中トロはその隣」で終わりません。腹側ほど、頭側ほど、皮側ほど脂が強くなりやすいという傾向はある。でも、その濃淡を一本の線で切った共通地図はない。これが、調べて見えてきた境界です。

参考にした資料

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