カラスは肉を食べるのに、なぜ猛禽類ではない?

枝にとまるカラスとオオタカを並べた比較イメージ

カラスは、昆虫だけでなく、鳥の卵やヒナ、動物の死体まで食べます。

それなら肉食のタカやワシと同じ「猛禽類」に入るのではないか。前の記事で「猛禽類=肉を食べる鳥、ではない」と分かったあと、今度はカラスが気になりました。

先に答えると、カラスは動物も食べますが、通常は猛禽類とは呼ばれません。

日本で身近なハシブトガラスやハシボソガラスは、分類上はスズメ目カラス科です。そして猛禽類は、「肉を口にした鳥を全部入れる箱」ではありません。

肉を食べるなら猛禽類。そんな単純な線引きではなかったんですね。

まず、カラスは本当に肉を食べる?

ここは思い込みではありません。

環境省の資料は、カラスを雑食性とし、木の実や昆虫のほか、小鳥や残飯なども食べると説明しています。環境省の鳥類アトラスでも、ハシブトガラスについて、昆虫、両生類・爬虫類、穀物、果実、鳥のヒナや卵、残飯、動物の死体などが挙げられています。

ただし、動物を食べることと、動物だけを食べることは別です。

カラスは、その場所と季節にあるさまざまな物を利用する雑食の鳥です。「肉も食べる」は正しいけれど、「肉食専門の鳥」と置き換えると、カラスの食べ方から離れてしまいます。

枝にとまるカラスとオオタカを並べた比較イメージ
どちらも動物質の餌を食べますが、同じ分類・同じ採食法という意味ではありません(比較イメージ)

分類表を見ると、カラスは猛禽類の代表群とは別の枝にいる

日本野鳥の会は、カラスをスズメ目カラス科に分類しています。環境省の生物情報でも、ハシブトガラスとハシボソガラスはスズメ目カラス科です。

一方、日本で猛禽類としてよく扱われるタカ・ワシ、ハヤブサ、フクロウは、それぞれタカ目、ハヤブサ目、フクロウ目に分かれます。

分類上の位置通常「猛禽類」と呼ぶか
ハシブトガラス・ハシボソガラススズメ目カラス科呼ばない
タカ・ワシ・トビタカ目呼ぶ
ハヤブサ・チョウゲンボウハヤブサ目呼ぶ
フクロウ・ミミズクフクロウ目呼ぶ
鳥類の中での位置
スズメ目
カラス科
カラス
タカ目
タカ・ワシ・トビ
ハヤブサ目
ハヤブサ
フクロウ目
フクロウ

黄色の3群は、日本で猛禽類と呼ばれる代表的な範囲。
「猛禽類」という一つの目があるわけではありません。

ここで大事なのは、分類表に「猛禽目」があり、カラスがその条件を満たさなかったという話ではないことです。

前の記事で確認したように、「猛禽類」は一つの目や科ではなく、複数の系統にまたがる呼び名です。それでも、スズメ目のカラスを猛禽類へ含めるのが一般的、というわけではありません。

違いは、くちばしよりも「足でどう獲物を扱うか」に見えやすい

猛禽類の説明では、鉤状に曲がったくちばしと、獲物をつかむ強い脚、鋭く湾曲した爪がよく挙げられます。

ただ、くちばしだけを見ると少し迷います。カラスの太いくちばしも力があり、肉をついばむことができます。足で食べ物を押さえることもあります。

違いが見えやすいのは、獲物を捕らえる一連の使い方です。多くの昼行性猛禽類は、発達した足と爪で獲物を捕らえて押さえ、鉤状のくちばしでちぎります。カラスは、ついばむ、拾う、ほじる、割るなど、幅の広い採食をします。

「爪が鋭いから合格」という一項目ではなく、体のつくりと獲物の扱い方が組み合わさっています。

カラス
木の実・昆虫・卵・死体など
拾う・ついばむ・ほじる
スズメ目カラス科
代表的な猛禽類
足と爪で獲物を捕捉・保持
鉤状のくちばしで処理
タカ目・ハヤブサ目・フクロウ目

「動物質の餌も食べる」は重なっていても、同じ呼び名ではありません。

とはいえ、これも絶対判定表ではありません。カラスにも狩りをする場面があり、猛禽類にも腐肉を多く食べる種がいます。トビのように雑食性の強い猛禽もいます。

体の特徴は「なぜ一緒に呼ばれてきたか」を理解する手掛かりにはなりますが、それ一つから全鳥種を機械的に仕分ける規則ではないようです。

肉を食べる鳥と猛禽類が同じなら、ほかにも困る

「動物を食べる」を猛禽類の条件にすると、カラスだけの問題ではなくなります。

魚を捕るペンギンやカワセミ、魚やカエルを食べるサギ、卵や小動物も食べるカモメまで入ってきます。反対に、猛禽類のハゲワシには、死んだ動物を主な餌にする種がいます。

食べ物だけで分けようとすると、猛禽類の範囲が急にぼやけます。

「肉を食べる鳥」は食性の説明。「猛禽類」は分類、形態、捕食のしかた、長く使われてきた呼び方が重なった言葉です。

この二つは大きく重なりますが、同義語ではありません。カラスは、そのずれがよく見える鳥でした。

カラスがタカを追いかけても、猛禽類にはならない

空を見ていると、カラスがタカやトビを追っていることがあります。あれほど猛禽類に向かっていくなら、カラスも同じような捕食者なのでは、と感じるかもしれません。

でも、相手を追い払う行動と、その鳥がどのグループに属するかは別の話です。複数の鳥が捕食者へ接近し、鳴いたり追ったりして遠ざけようとする行動は、モビングと呼ばれます。

豊中市の解説は猛禽類をカラスの天敵として挙げています。国立科学博物館の報告には、オオタカがハシブトガラスを捕食した痕跡も記録されています。追っている場面だけを見るとカラスが優勢に見えても、両者の関係は単純な「カラスのほうが強い」ではありません。

この行動は面白いので、猛禽類の定義に詰め込まず、次の疑問として別に調べることにします。

「肉を食べるか」ではなく、「どんな鳥として扱われてきたか」

カラスが猛禽類ではない理由を一言で済ませるなら、「スズメ目カラス科だから」です。

けれど、それだけでは「猛禽類自体が一つの正式分類ではないのに、なぜ?」が残ります。

カラスは動物質の餌も食べる雑食の鳥。分類上はスズメ目カラス科です。一方、猛禽類という言葉は、獲物を捕らえる足や爪、鉤状のくちばしなどを備えたタカ・ハヤブサ・フクロウの仲間へ、系統をまたいで使われてきました。

国土交通省の用語集が示すように、環境分野でも猛禽類に一つの明確な定義があるわけではありません。海外では、進化系統を踏まえて猛禽類を定義し直そうという研究者の提案もあります。

だから、カラスは「肉食度が足りないから外された」のではなく、肉を食べるだけでは猛禽類に入らない、と理解するのがいちばん無理がありません。

カラスと猛禽類の違いを見ていたら、猛禽類という言葉の少し曖昧な輪郭まで見えてきました。

次に残ったのは、カラスがなぜ自分より危険そうなタカを追いかけるのか、という疑問です。あの行動は本当に「攻撃」なのか。そこはモビングを手掛かりに、あらためて調べます。

この記事で確認した資料

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